凪良ゆう『美しい彼』 感想

凪良ゆうの『美しい彼』を読んだ。凪良ゆうは『流浪の月』で2020年の本屋大賞を受賞した作家だが、なんとBL小説でデビューした作家と聞いて、『流浪の月』を買う前にこちらを購入した。

私は地元の書店で『美しい彼』を買った訳なのだが、『流浪の月』の隣にさりげなく置かれていたことにまず驚いた。こそこそしながらBLコーナーで凪良ゆうの名前を探した時間を返せと思う反面、この作家はBLというジャンルを広めていってくれる人なのかもしれないと思わされた。それがいいことか悪いことかはわからないが。

 事前にあらすじやレビューなんかを少し読んだのだが、その時はあまりピンとこなかった。「きもうざ」な主人公ってなんだ。しかし評価は高く、本屋大賞作家ということもあって、なかなか大きな期待を持って読み始めた。 

 

 まずこの作品の1番の魅力はなんと言っても二人の関係性の新しさだろう。

吃音もちで幼少の頃から周囲に溶け込めずスクールカースト最底辺の主人公平良。両親は彼を心配し気を遣うがその優しさは彼を救ってはくれない。

平良を救うのはスクールカーストの頂点に立つ王、清居奏の何気ない自己中心的な一言なのである。清居は平良に対して優しさを見せたりすることはない。しかし優しさや正義ではなく清居の圧倒的な力に平良は救われ、彼を主人のように崇め忠誠を誓う。時にはストーカーよろしく清居の後をつけるなど確かに気持ち悪がられても仕方ないことをしている。

一方で清居は親に愛されなかった経験から愛されることを求めており、平良の神を崇めるような視線に喜びを覚えるようになる。

なかなか歪んだ関係の二人だがこの作品はそんなに重苦しいものではない。むしろ結構サクッと読める部類のものではないだろうか。というのもこの作品は設定こそ変わっているが展開という点ではよくある感じなのである。

恋のライバル的存在により誤解に次ぐ誤解、BLアンジャッシュになりながらも、それきっかけで無自覚な二人が恋人になるという展開は特に新しいとはいえない。この作品は終わりに近づくにつれてどんどん普通になっていくと言えるかもしれない。

しかしこれは別にこの作品の悪口が書きたくて書いているのではない。これは悪く言えばありがちだが、良く言えば王道な展開だ。奇抜な設定を王道で万人に受け入れられるであろう展開に落とし込んでいるところがすごいのだ。そしてキュンキュンできてしまうところがすごい。

私は正直関係性のオタクみたいなところがあるので、この二人の関係性は好きだ。この二人性格どころか親との関係性まで正反対なのである。全然違う二人が出会って、お互いが救いになるというのは良い。好き。

凪良ゆうの一般向け作品も是非読みたいと思った。ただ最近本を買いすぎているのでハードカバー買うのが若干躊躇われる。