東野圭吾『ナミヤ雑貨店の奇蹟』 感想
『ナミヤ雑貨店の奇蹟』は2017年に山田涼介主演で映画化もされた東野圭吾のファンタジー作品だ。
まず最初に言うと私はそんなに東野圭吾が好きではない。これは読まなくてはならない事情があったので読んだ。
この作品を読む前もどうせお涙ごっつぁんのハートフルストーリーなのだろうとあまり期待していなかった。
しかし読み終わってみた私の感想は、予想と違うものになった。
結論から言おう。面白かった。お涙ごっつぁんとか言って本当にすいませんでした。
物語は若いコソ泥3人組が犯行後に廃屋同然の雑貨店に逃げ込んだところから始まる。そしてその雑貨店に30年以上前からの悩み相談の手紙が届く。3人組は困惑しながらも過去と手紙のやり取りをしていく。
これが1章で2章以降は様々な視点から雑貨屋の事が語られ、段々とナミヤ雑貨店のことや、悩み相談をした人のことが見えてくるという構造だ。
元々私がタイムトラベルものが好きということもあるが、複数の視点から同じ出来事が語られ詳細が徐々に分かっていくという展開にどんどん引き込まれてしまった。
私はこの作品、映画の予告や公式サイトにある「東野圭吾史上最も泣ける!」ようなものとは思わなかった。泣こうと思って読むと拍子抜けするかも知れない。
これは登場人物が多いので1人に感情移入しきれないからかもしれない。だが私はだからこそ楽しめたのではないかと思っている。
私が東野圭吾をあまり好きではない理由の最も大きな点は、登場人物にリアリティを感じられないことである。『人魚の眠る家』を最近読んだが人間が作者の都合で動かされているように感じてしまいイマイチ入り込めなかった。
しかし『ナミヤ雑貨店の奇蹟』は展開の見事さもあってか、そういう点はあまり気にならない。
そしてあとひとつ、上手いなと思ったのが手紙の文面だ。コソ泥3人組のちょっとバカっぽい文章は読んでいて面白かった。人となりがなんとなく分かるような文面、こういうのは文章が上手くなければ書けないだろうなと思う。
これは映画化するのも売れるのも分かる、そんな作品だった。めちゃくちゃ好きな作品という訳ではないが、誰が読んでも楽しめるだろうなと思う。